競馬に少しずつ詳しくなっていくと、「せん馬」という言葉を知り、「なんだこれは?」と思う人も多いのではないでしょうか。
せん馬は「セン馬」と表記されたり、漢字で「騸馬」と表記されることもあります。
かんたんに言えば、オス馬を去勢したものが、せん馬になります。
なぜ、せん馬が存在しているのか、不思議に思うこともあるでしょう。
この記事では、「せん馬が存在している理由」や「せん馬の特徴」などについて、詳しく紹介しています。
ぜひ、最後までご覧ください!
目次
競走馬の性別にあるセン馬とは?
ご存知の方も多いでしょうが、オス馬は「牡馬(ぼば)」で、メス馬は「牝馬(ひんば)」と呼ぶのが競馬界では一般的です。
そして、牡馬を去勢したものが「セン馬」と呼ばれ、競走馬にとっては牡馬、牝馬に並ぶ「第3の性別」とも言われることがあります。
セン馬は、日本のサラブレッド全体ではそこまで多くはありませんが、海外では積極的にセン馬にする地域もあるんです。
いずれにせよ、基本的に日本では気性が荒い馬が去勢されて、セン馬となるケースがほとんどです。
セン馬にする3つのメリットとは?
わざわざ牡馬を去勢手術するわけですから、当然セン馬にするメリットは存在しています。
メリットは以下の3つです。
- 気性が落ち着いて折り合いがつきやすくなる
- 女性ホルモンで体が柔軟になる
- 故障(ケガ)のリスクが減る
では、順番に見ていきましょう!
(1)気性が落ち着いて折り合いがつきやすくなる
気性の荒さは、牡馬に多く分泌される男性ホルモンが強く影響します。
そのため、去勢で男性ホルモンの分泌が減ると、気性も落ち着いてくることが多く、人の言うことをより聞きやすくなるのです。
つまり、レース中の騎手の指示に従順になる可能性が高く、折り合いがつきやすくなります。
これにより、無駄なエネルギーをレース中に消費しなくなり競走成績が上がるほか、ふだんの調教もしっかり行えるようになり、そちらの面でも能力が高くなるのです。
(2)女性ホルモンで体が柔軟になる
男性ホルモンの減少は、相対的に女性ホルモンのバランスが強くなることを意味します。
女性ホルモンは、一般的に筋肉を柔軟にする効果があると言われているのです。
その柔軟な筋肉は瞬発力を高めるとも言われ、結果として競走能力の向上につながるのです。
(3)故障(ケガ)のリスクが減る
人間でも、運動前に筋肉の柔軟性を高める準備運動をすることは当然のことです。
これは、筋肉が硬いままだと伸縮の際にケガをしやすいからですが、柔軟な筋肉は、逆に故障をしにくい筋肉だといえます。
さらに、女性ホルモンが強くなると、筋肉疲労も少なくなるともいわれています。
筋肉疲労の蓄積も、ケガとなる要因ですから、この面でも故障のリスクが減るというわけです。
セン馬にする2つのデメリットとは?
メリットだけ見ると、セン馬がもっと増えても良さそうですが、そうなっていません。
その理由は、同時に大きな2つのデメリットがあるからです。
- 生殖能力がないため種牡馬になれない
- クラシック競走に出られなくなる
では、順番に見ていきましょう!
(1)生殖能力がないため種牡馬になれない
去勢すると、精子が無くなるため生殖能力を失います。
たとえ、セン馬となって素晴らしい競走成績を残しても、種牡馬にはなれないのです。
血統の良い馬の場合などは、成績が残せなくても種牡馬になれる可能性もあり、気性に問題があっても去勢しづらいというケースがあります。
(2)クラシック競走に出られなくなる
昔ほど制限がなくなったものの、未だに牝馬限定戦以外でも、セン馬が出走できないレースがあるのです。
代表的なところでいうと、牡馬クラシックの皐月賞、日本ダービー、菊花賞に加え、朝日杯FS、NHKマイルCが挙げられます。
これは、2~3歳のG1レースが、歴史上種牡馬の選定として大きな役目を果たしているからだと言われています。
香港馬にセン馬が多い理由は?
日本にはセン馬が少ないものの、海外にはセン馬が多い地域があります。
その代表的な地域として挙げられるのが香港です。
香港では馬産が行われておらず、オーストラリアやニュージーランドなどから競走馬を輸入するため、繁殖に回すことがまずありません。
ただし、オーストラリアやニュージーランドも古くからセン馬が多い地域であり、さらにアメリカもセン馬の名馬が多いなど、競走馬に対する文化的な影響もあるようです。
活躍した・しているセン馬とは?
日本ではセン馬自体が少ないためあまり目立ちませんが、引退馬・現役馬で活躍している馬はちゃんと存在しています。
では、代表的な名馬を挙げてみましょう。
ノンコノユメ(引退)
逃げ・先行の脚質が強いダート界のなかで、最後方から一気に追い込んでくる珍しいタイプでありながら、2018年のG1フェブラリーステークスを優勝しました。
セン馬にする前から活躍していましたが、より活躍できる環境を求めてセン馬になった1頭です。
カレンミロティック(引退)
芝の中長距離レースにおいて、逃げ・先行馬として長く活躍している馬です。
G1勝利こそありませんが、天皇賞(春)で2着1回と3着1回、そして宝塚記念で2着と、いずれも人気薄でありながらG1で馬券に絡みました。
重賞は金鯱賞を勝利しています。
サウンドトゥルー(引退)
ノンコノユメと同様、ダートの一線級の差し馬として長く活躍しています。
JRAのG1勝鞍はチャンピオンズカップのみですが、地方交流レースの東京大賞典や、JBCクラシックなども優勝しています。
レガシーワールド(引退)
93年のジャパンカップをセン馬で初めて勝った馬です。
二冠馬であるミホノブルボンの同期の僚馬としても知られ、ライスシャワーやメジロマックイーンなどと先行力を活かして名勝負を繰り広げました。
マーベラスクラウン(引退)
レガシーワールドが勝った翌年、94年のジャパンカップを立て続けにセン馬として連覇した馬です。
この年の三冠馬ナリタブライアンの主戦である南井騎手(現調教師)が騎乗して勝利し、94年が南井騎手の年であったことを印象づけました。
セン馬が世界で活躍する日も近いかも!
セン馬は日本ではそれほど多く存在してはいませんが、個性的で印象深い馬がそれなりにいるのも確かです。
反対に海外では、オーストラリアのファーラップやアメリカのジョンヘンリーなど、世界的にも歴史的名馬であるセン馬が存在しています。
以前と比較して、日本の競馬界でもセン馬が出走できるレースが増えてきており、ひょっとすると、日本から世界で通用するセン馬がこれから出てくるかもしれません。
みなさんも、これを機会にセン馬に注目していただきたいと思います。